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マーティン・パー写真展 写真の原点へ
今、東京都写真美術館ではマーティン・パー写真展「FASHION MAGAZINE」(07.7.7~8.26)が開催されています。東京都写真美術館のホームページでは、この写真展について、2005年に出版されたマーティン・パーの『FASHION MAGAZINE』は、そのシンプルなコンセプトに華やかなイメージとその裏側、そして何よりも彼一流のアイロニーを効かせた代表作といえるでしょうと紹介しています。

しかし、マーティン・パーはこの写真展の開催挨拶の中で次のように言っています。「この写真展のためのテーマというものが存在するならば、人生のすべて、と言えるでしょう。われわれは、日々仕事に向かい、ショッピングを楽しみ、歯医者に通い、かと思えば浜辺のバカンスにも出かけます。そんな日常生活の中で、いくつかの写真にはモデルを起用し、またいくつかの写真には通りで見かけた人々を撮っていますが、どうです? みなさん、区別がつかないでしょう?」

嘗て、スーザン・ソンタグは彼女の「写真論」の中で、写真家は都会の孤独な散歩者、地獄と官能の観察者として始ったと言いました。マーティン・パーは、まさに孤独な散歩者として身辺の人生すべてを観察して撮影しています。

更にマーティン・パーは開催挨拶の中で続けます。
「ある写真はドキュメンタリーのように、またある写真はファッションらしく撮っていますが、いずれもアートっぽくも見えるでしょう。それらの違いについて論じることはなんて面白いことか! 世の中の決まり事などかなぐり捨てて、私は新たなスタイルを展闘していきます」

新たなスタイルを展開するとのマーティン・パーの決意は、芸術的写真を美的に、また技術的に完成させると言う、従来の伝統的手法に反旗をひるがえすことを意味します。それを、彼の写真にはユニークなコンセプトがあるとか、アイロニーに満ちているとか批評するのは、いささか見当違いだと思います。

そのことを、具体的な展示作品で見てみましょう。
先ず、展示場に入るなり狭い廊下のような展示場の両側に、中高年の男女のキッス・シーンを大写した写真が並びます。「クチュール・キス」シリーズと称するこれらの写真は、ファッションショウに集まる人々の裏側をスナップしたものです。この廊下の展示場を進む私達は、これからファッションショウを見に行く気分になります。

「研修生」シリーズでは仕事を習い始めの女性が、上司の指導を受け、コピーを取り、書類を探す平凡な場面を撮った写真です。日常何処でも見るありふれた場面が被写体に選ばれ、それをカメラに捉えられると「そうなんだ」と事実を確認させる写真です。これが伝統的写真とは違う写真であると、マーティン・パーは主張しています。

「ジャンク・スペース」シリーズも、同じく平凡な事実を淡々と伝える写真です。スーパーの外と中で日常の食料品を買う女性は「こうなんだ」と駄目を押すような情景です。カメラは、他のいかなる伝達手段よりも事物をよく見る力があると、主張しています。

ドキュメンタリーでありながらファッションらしく、その結果アートっぽく見える写真は、「リミニ」シリーズの一枚です。浜辺を長身の着飾った美女が歩き、反対側から短躯の中年男が半裸で歩く海浜風景は、相対化の手法で写真の美の意味を示した例だと思います。

相対化と言う手法で見る人を惹き付ける写真は「ジョッキー」シリーズです。長身で大柄な顔無しの美女を前面に据えて、小柄な競馬騎手たちにカメラを凝視させる構図は、ひたむきな騎手たちの表情を引き立てます。写真を見る人達は、美女はどんな顔をしているかと視線をめぐらすが発見できず、騎手たちの引き締まった顔に目を向けるのです。

写真を見る人々にこのように語りかける写真としては、ハイヒールを撮った「シリーズ・ファッション」があります。女性のハイヒールをフォーカスしたりアウトフォーカスしたして、背景から靴へ、靴から背景へと視線を誘導するのです。被写体はいずれも平凡なものですが、マーティン・パーの手になると一種のダイナミズムが生まれて、ひとびとを惹き付けるのです。

スーザン・ソンタグは前述の「写真論」で、写真はそれ自体は芸術形式ではないが、その主題を全て芸術作品に変える特別の能力を持っていると述べています。マーティン・パーは、写真の原点に戻ることによって主題を芸術作品に変えているのでしょう。
(以上)
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【2007/08/08 15:33】 | 写真展 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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