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Y.カーシュの肖像写真展を見て
いま東京六本木ミッドタウンの富士フィルムフォトサロンでユーサフ・カーシュの肖像写真展が開催されています。(2011.9.1~10.31)

Y.カーシュの名前を有名にしたのは写真雑誌「ライフ」の表紙に載ったウィンストン・チャーチルのポートレイトでした。その後、肖像写真家として世界的に名声を博し、カーシュに肖像写真を撮られることが有名人の証しとまで言われたそうです。

そのカーシュの肖像写真18枚が FUJIFILM SQUARE に展示されています。18人の個性溢れる偉人達の特徴を、カーシュのカメラは一瞬のうちに捉えて見事です。鋭い目つき、手の仕草、傾く頭、皮膚の皺などを見つめていると、彼らが眼前に居るかのような錯覚に陥ります。

以下に順不同で感じたままの感想を述べてみます。

会場の最初に掲げられていたのはチャーチルの写真です。この写真は撮影直前にカーシュが撮影に邪魔な葉巻をチャーチルの口から引き抜いた直後に撮影したという、曰く付きのものです。

むっとしたチャーチルがカーシュを睨み付けるその表情は、第二世界大戦でナチスのロンドン爆撃にも屈せず、英国を勝利に導いたチャーチルの根性そのものが顕れています。人間はちょっとした事件にも思わず本性を現すもので、カーシュのカメラ・ショットの鋭さは流石です。

マルク・シャガールの肖像写真は、チャーチルのそれとは全く違って、自らの作品をバックに配して、シャガールは夢見るような幸せな表情をしています。

ユダヤ人のシャガールは革命で故郷のベラルーシ(ロシア)を追われ、アメリカ、フランスと移り住みますが、空中に浮いて恋人のベラとキッスしている絵「誕生日」が語るように、常に愛の画家でした。故郷への愛を回想的に表現した作品の多いシャガールの内面を捉えた写真だと思います。

意外だったのは、男性的で逞しいアーネスト・ヘミングウェイの肖像写真が優しいまなざしであったことです。

撮影のためヘミングウェイの家に泊めてもらったカーシュが、翌朝ヘミングウェイの愛飲していたダイキリ(ラムのカクテル)を所望すると、体に良くないと気遣った話をカーシュは披露していましたが、ヘミングウェイは本当は優しい性質なのでしょう。それが優しい目に現れた瞬間をカーシュは見逃さなかったわけです。

アイルランドの劇作家、バーナード・ショーの肖像写真は、性格描写に徹した鋭い写真です。ショーは多くの戯曲を書きましたが、他方では皮肉な警世家として一世を風靡しました。常に時代の先を読み、鋭いレトリックで相手を論破していました。斜に構えた写真のショーは「君に何が分かるかね?」と言っているようです。

医者であり且つキリスト教の伝道者としてアフリカで活躍したアルベルト・シュバイツアーの肖像写真は、シュバイツアーの業績を映像化すると、かくの如しという写真です。片手を口に当て、俯いて目を瞑り、瞑想している額には、苦悩の皺が寄っています。演出したかのよう完璧な肖像写真です。

アルベルト・アインシュタインの肖像写真は、眼前で両手を組み、気楽に一点を見つめているものです。アインシュタインは相対性理論や量子論で革命的理論を展開した20世紀最大の物理学者ですが、個人的には偉ぶらない、気さくな人柄であったと言われています。写真のアインシュタインは、リラックスして目元は涼しげです。

肖像画においても肖像写真においても、対象物に肉迫してその内部にあるものを把握して表現するという点では同じだと思います。違うのは、絵画では把握したものを反芻する時間的余裕がありますが、写真にはそれがありません。

ただし、写真には、多くの瞬間から一つの瞬間を選択できるという利点はあります。即ち、何枚も写真を撮って、その中から良いものを選択すると言う時間的余裕はあります。

しかし、撮られた複数の瞬間もまた、無限の瞬間の中から選択されたものです。肖像写真では、写される者と写す者とが対峙している間に、決定的瞬間というものが在る筈です。無数にある瞬間に潜む決定的瞬間を捉えることが、選択の全てであって、後から選択することは本当は選択とは言えないでしょう。

そのように考えると、カーシュがチャーチルを捉えた決定的な肖像写真は、これ一枚しかあり得ず、それ以前やその後に何枚もの写真を撮っていても、それらは選択の対象にはなり得ないのです。

上に取り上げた偉人達の外にも、パブロ・ピカソ、パブロ・カザルス、ジョアン・ミロ、ヘレン・ケラー、ジョージア・オキーフ、ジャック・クストー、ジャン・シベリウスなどの肖像写真がありましたが、それらも皆、内面を表出した決定的瞬間をカーシュが捉えたものでした。
(以上)
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【2011/10/04 23:36】 | 写真展 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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