黴(かび)は日常生活で身近に見るものですが、食物を腐敗させたり衣類や部屋を汚したりするので、悪いものとして嫌われます。しかし、他方では発酵食品を産み出したり、薬品の原料を作ったり、大事な働きをするので貴重なものとして尊重されます。
黴は湿気を好み、太陽光を嫌いますから、棲息する場所は限られています。じめじめした薄暗いところに面状に広がって発生します。黴の本体は菌糸と呼ばれる糸状の細胞から構成され、集団で生殖するので人の目には平面に広がる領域として見えます。
この黴が繁殖する姿形は、その場所の環境や黴菌の種類により千差万別です。繁殖する黴の領域の形が面白いと感じたのは、ある山林のなかでした。幾つもある大きな岩肌に、夫々の黴が己の領域を自由に広げて、しかも或る間隔を保ちながら棲息している様を見て美しいと感じたのです。
人工植林の山林は整然として単純な美しさがありますが、人間の手が加わらない原生林は複雑なバランスの美しさがあります。それは異なる樹種が互いに制約し合いながら成長して、一つの森を構成する美しさです。
大きな岩肌の黴の成長の姿を見て、原生林の生育と同じ事を考えました。彼らは重なり合うことなく隙間を縫って自由に領域を伸ばした結果が、この姿なのだと。ここには、自然が産み出した密かな構造のバランスがあります。
この岩肌に棲息する黴にも違う種類があるようで、ある黴は面となり、ある黴は点となって、それぞれが配置される模様は、無造作に放置されたままとは思えない巧みさがあります。更に、赤みがかった岩肌の色彩が黴の色ににじみ出て、色彩にもグラデーションがあります。
三脚を持たずに山に入ったので、山林の中の薄暗い岩肌の撮影は難しかったのですが、何枚かのショットで黴の生態を捉えたと思います。
改めて写真を見ていると、意図しないことでしょうが、黴は成長する過程で無意識に画を描いているのではないかと錯覚する程の図柄です。この図柄をモデルにして絵画を描けば立派な抽象画になります。人間は自然には敵わないと感じました。 (以上)
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