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写真展 甦る中山岩太
東京都写真美術館で「甦る中山岩太」という写真展が開催されています。(2008.12.13~2009.2.8)

中山岩太という写真家は大正から戦前の昭和にかけて活躍した人です。戦後も活躍していますが、主たる作品は戦前までに発表されたものです。

展示会は「東京からニューヨーク/パリへ」「モダニズムの光彩」「モダニズムの影」「甦る中山岩太」の4部に分かれていますが、大まかな時代区分として大正ロマンの時代に対応するのが「モダニズムの光彩」の部であり、戦前の昭和時代に対応するのが「モダニズムの影」の部です。

最後の「甦る中山岩太」の部は、昭和初期の作品のオリジナル・ネガからのニュー・プリントを作成し展示しただけで、必ずしも中山岩太の作品全体を現代的視点で再評価すると云う意味ではありません。

しかし、この展示会は、そのような技術的な再生という狭い視点ではなく、戦前までの中山岩太の全作品の現代的意義を問うという形で「甦る」ものは何かを示しています。

中山岩太は、写真家としての活動をニューヨーク、パリで始めました。日本人としては一番早く海外の前衛的な写真技術、フォトグラム、フォトモンタージュなどを会得して日本写真界の近代化に貢献しました。「東京からニューヨーク/パリへ」の部の写真では、まだモダニズムの写真は少ないですが、「ダンサー」(作品36、37)「座席」(作品39)ではその片鱗を見せています。

「モダニズムの光彩」の部では、モンタージュ手法を駆使したモダニズムの作品が数多く展示されています。ネガと陰影を同じ画面で対比した「パイプとマッチ」(作品43)は虚と実を結びつけて人の想像力を刺激します。同じく「巴里の夜」(作品44)もモンタージュの効果で想像力を広げます。

ここでは多くのコンポジション作品(複数の素材を組立て構成した作品)が展示されています。「無題」(作品60)は、4枚の写真を素材として、それらをモンタージュして一枚の写真を構成しています。見る人によって色々に感じ取れる作品です。

コンポジション(ヌードとガラス)(作品74)は、「無題」と並んでモンタージュの効果を最高に高めた作品です。音楽に喩えるなら複雑微妙な交響曲を聴いているような感じの作品です。

転じて、「神戸みなと祭り」シリーズは簡明なモンタージュの作品です。作品75は裏と表を、作品77は部分拡大と大局遠望を組み合わせたものです。一枚の写真で多面的な実相を表現した作品です。

モダニズム(近代主義)とは20世紀に文学、芸術の世界で始まった、伝統に反逆する前衛的な運動一般を指します。その中で写真芸術は絵画のモダニズム、即ち、未来派、キュビズム、シュールレアリズムの作品に大きな影響を受けました。近代写真の始祖、マン・レイがいち早く発表したシュールレアリズム写真はその証拠です。

日本の大正時代は、19世紀のロマン主義と20世紀のモダニズムが同じ時期に重なって現れた時代です。個人の解放と理想主義を求めるロマン主義が流行ると同時に、近代的合理主義が賞揚されました。大正ロマンには二つの要素が入り混じっていますが、共通しているのは明快さです。

しかし「上海から来た女」(作品80、81)は、古き良き時代としての大正ロマンを表現していると云うよりも、昭和初期の暗さを湛えています。「モダニズムの影」の部に属する作品でしょう。

それでは次の「モダニズムの影」とは何を指すのでしょうか?
ここでは中山岩太の被写体は、植物、昆虫、海中、足許、静物などです。この傾向を大震災と大恐慌で社会が暗くなりつつあった時代に、モダニズムも沈鬱になったと捉える解説は正しいでしょうか?

ここでは、私は二つの作品群に注目します。一つは第二次世界大戦開戦直前の1940年の作品群と、もう一つは敗戦直後の1947~8年の作品群です。

開戦直前の「冬眠」(作品109)、「コンポジション(海の生物)」(作品110)、「アダム」(作品111)、「イーブ」(作品112)では抽象された造形美を見せます。敗戦直後の「コンポジション(ミモザ)」(作品121)、「静物(あじさい)」(作品122)、「静物」(作品123)では、花瓶と花を用いて造形美を更に単純化して表現し、「静物(ひまわり)」(作品124)には凄みがあります。

「モダニズムの光彩」にはモンタージュ手法が持つ隠蔽や飛躍といった難解さがありましたが、この「モダニズムの影」ではその難解さが消えて、簡明にして力強いものがあります。それはアメリカの写真家メイプルソープが表現した造形美に通じるものがあります。

「モダニズムの影」の部に属する中山岩太の写真には、完成度の高さを示す作品が数多くあり、モダニズムが沈鬱になったとばかりは云えません。混迷する戦前戦後のリアリズム写真運動の中で、中山岩太は孤立したのではなく、孤高を保ったのです。沈鬱にならず昂然としていたのです。

「甦る」とは、中山岩太が求めたモダニズムの美を再評価することではないでしょうか?

最後に、東京都写真美術館の意欲的な三つの企画展、柴田敏雄、中山岩太、イマジネーションのポスターを掲げておきます。
(以上)


                              東京都写真美術館-01D 0902q
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【2009/01/10 21:31】 | 写真展 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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