FC2ブログ
現代に残る江戸の匂い 木村恵一写真展より
品川のキャノンギャラリー S で、写真家木村恵一氏の「江戸東京・下町日和」という写真展が開かれています。(2008.6.20~7.31)

木村恵一氏は、震災と戦災で消されて行った東京の下町に残る江戸の匂い発見し、それを美しく映像として記録しています。展示された写真は、私達がいま何気なく見ている町にも江戸の遺産が生きていることを知らせてくれます。

江戸の文化は震災と戦災で壊される前に、明治の近代化で壊れ始めます。徳川時代の文化が明治の西欧化で破壊される様は、見方を変えれば文明が野蛮に浸食された過程でした。

その浸食は、徳川時代の古い建物や構築物が壊され、西洋風の建物や施設が生まれたという外見ばかりでなく、江戸町人の生活が消えていき、地方から上京した新しい東京人の生活がそれにに置き換えられると言う、街の内面の変化でもありました。

江戸の平和は250年余り続きました。この平和で醸成された下町の文化は、西欧世界からみると地球上で滅多に見られない存在なのだそうです。しかし、その中に住む日本人にとっては、これは当り前のことであり、それが消えゆくのも当り前でした。

この消えゆく江戸町民の生活の名残りを、現代の東京の街中に発見した写真としては、私は次の五点に注目します。

台東区谷中と台東区下谷の二階建て長屋を写した二枚の写真、及び文京区根津の日用雑貨屋の店先を写した写真、これらは下町の露地の生活感をを捉えています。また、台東区谷中で露地に水打つ男と男に挨拶する老女の写真、台東区池之端で屋台の主人が一服する場面の写真です。

ここに写された建物は昭和初期に建てられたものでしょうし、登場する人物は平成の人々ですが、江戸時代も斯くの如くありなんと思わせる雰囲気です。

次に、私は江戸の工芸技術を今に伝える職人たちの表情と、その仕事場を撮影した十数点の写真に注目します。

浮世絵木版彫師が作業している仕事場の情景は江戸時代の復元です。江戸提灯、江戸凧、江戸小紋などの作品を前にして誇らしげな職人たちの表情には、江戸文化の後継者としての誇りが窺えます。

これらの写真に写っている職人たちは殆ど既に亡くなられているそうですが、後継者はいても風貌までは後継できないと、撮影者の木村恵一氏は語っていました。彼らは江戸文化を体現した最後の人達でした。

江戸時代から続く神社の祭りや、朝顔市、鬼灯市などの町の行事を写した写真は、確かに江戸の伝統を写したものですが、これらハレの場面はこれからも同じようにくり返されるので、消え去ることはないでしょう。

神田川が隅田川に注ぐ河口に柳橋があります。柳橋は江戸時代から隅田川の花街として栄えたところで、明治以降も芸者を乗せて酒盛りをする舟遊びの拠点でありました。しかし、朝早くそこに係留してある小舟には釣竿を立てた釣人が乗り込んでいました。写真家木村恵一氏は、その変化を素早く一枚の写真で捉えています。

江戸は消えて明治になり、明治は遠くなって昭和になりました。平成の現代もやがて消えていきます。消えゆくものは江戸時代だけではないのです。現代の映像を将来に伝えることが写真の重要な役目だとすると、この出発前の釣船の情景も、柳橋の変貌として見過してはいけない貴重なものとなるでしょう。

その意味で、今眼前にあるがやがて消えていく光景で、後世に残すべき光景は何か難しい問題を投げかける一枚でした。
(以上)
スポンサーサイト



【2008/07/08 10:24】 | 写真展 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
<<写真とヴァーチャル・リアリティ | ホーム | 昼と夜の風景>>
コメント
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
→http://wakowphoto.blog61.fc2.com/tb.php/165-4ec2e425
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |