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旅のコレクション展 第一部「東方へ」

東京都写真美術館では、「旅」をテーマに三回シリーズでコレクション展を開いています。第一回は「東方へ」ということで19世紀にアジアを旅した写真家達の記録写真を展示していました。(2009.5.16~7.12)

19世紀に西洋の上流社会では、自らのルーツである地中海文明を子弟たちに実地体験させる旅行を奨励していました。その内の一人、カルヴァート・リチャード・ジョーンズが当時のカメラでイタリア各地を撮影した写真が展示されていました。

写されたフィレンツェのヴェッキオ橋、ローマのコロシアム、サン・アンジェロ城などは、今見る姿と殆ど変わりはありません。石の建造物が百年や二百年で変る訳がないので驚くことはないのですが、続いて見た日本の江戸から明治にかけての風景の変わりようには驚きました。

フェリーチェ・ベアトが撮影した江戸の薩摩屋敷や細川屋敷の立派な長い塀、王子の三階建ての大きな茶屋、神奈川辺りの東海道沿道に並ぶ藁葺き屋根の家々、箱根町の街道の家並み、東海道の巨木の松並木などは、今はその片鱗も残っていません。

ベアトより新しい明治時代を撮った日下部金兵衛、内田九一の写真でも、蓮が繁茂した東京城(皇居)の濠、町屋造りの京都の祇園町通り、家々が建つ上野の不忍池、長崎市の俯瞰写真など、おおよその形は残っていますが風情は今と大分違っています。

これらの記録写真は、形が持続するという点で、やはり西洋の石の文化と日本の木の文化は違うということを如実に示しています。分かり切ったこととは云え、映像で見せられると、改めて日本の変化の早さに気付きます。

それでも、伊勢神宮、鎌倉の大仏など神社仏閣の写真は今と殆ど変わりません。非日常的な場、即ちハレの場の風景は日本でも持続します。写真による記録は素早く消える日常的な風景はを撮ることが面白いと思いました。

写真展のテーマは、内容に則して云えば、「東方へ」というよりも、「変わる風景、変わらない風景」と云うことになります。
(以上)
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【2009/07/30 10:09】 | 写真展 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
日本の家紋は超モダン
     1.銀座通り-132D 0906qtc
     写真1
                                     2.ルイビトン-01D 0709qt
                                     写真2
                  3.川崎大師-25D 0907qt
                  写真3

銀座中央通は、日本の最新のファッション店が並ぶ繁華街です。ある時その大通りに面した大手デパートの一角に日本の家紋を並べたような表看板が現れました。(写真1)

よく見ると、日本の家紋の一部を使ったデザインです。赤、青、黄、茶、オレンジなど色とりどりの家紋がデパートの壁面に貼り付けてあり、それがデパートのファサードになっていました。

広告主はフランス・ファッションのルイヴィトンです。ルイヴィトンは婦人用ハンドバッグで有名ですが、そのバッグの外面にも同じように日本の家紋を貼り付けた模様を用いています。(写真2)

デパートのファサードの家紋は色彩が鮮やかなので一見して日本の家紋とすぐ分かりましたが、バッグは薄茶色の中に家紋が薄く描かれているので、模様が家紋だと気付く人は少ないようです。

ルイヴィトンのバッグの表面は、何種類かの日本の家紋を平板に並べただけのデザインです。一つ一つの家紋の個性は消されて、全体として落ち着いた大人好みの雰囲気を出しています。

絵画の世界ではキュビズムの画家達が既存の映像物を貼り合わせて別の作品を作るコラージュという手法を発明しました。さすがルイヴィトンはフランスのメーカーです。材料は日本古来の家紋ですが、上手なコラージュで新しい別のデザインに変化させました。

家紋の故事来歴については前にも書きました(07.10.03 家紋のデザイン性)ので省略しますが、優れたデザインの家紋が日本で数多く生まれた背景についてだけ触れてみます。

背景の一つには、西洋では家紋に当たる紋章の使用は貴族や騎士階級に限られていましたが、江戸時代の日本では家紋は武家や公家の専用物でなく商人達も使っていました。自由な家紋の使用が新規考案を促し、優れた家紋を生んだのでしょう。

もう一つの背景は、古くは鳥獣人物戯画、その現代版の漫画に見られるように、日本人は映像の図案化の才能があったからでしょう。家紋には草木花や文字が組み合わされて使われており、巧みなデフォルメで識別し易い図案が数多く考案されています。(写真3)

戦後は自分の家の家紋を知らない世代が増えました。家紋は古くさい家制度の名残だと考えて無関心になりました。西洋人がデザインとしてのモダンさに注目して家紋をファッションに取り入れても、それが日本の図案であることさえも気付かない程、遠い存在になったていたのです。

古くさいと思っていた家紋が、超モダンに生まれ変わることをルイヴィトンで教えられました。
(以上)
【2009/07/23 11:03】 | デザインする | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
再び樹の肌の造形について
   1.樹皮模様-37D 0905qtc
   写真1
                     2.樹皮模様-01D 06qtc
                     写真2
                                   3.樹皮模様-07D 0705qtc
                                   写真3


以前、樹の肌の造形について書いたことがあります。(「樹皮の造形」2006.07.22) その後も、樹木の生態について観察していると、つい樹幹の肌の美しさに惹かれてしまいます。

樹種によって、また樹齢によって、樹幹の肌は色々な表情を示します。模様が違いますし、色合いが違います。二つとして同じ表情はありません。

最初の写真1では、緑色から薄紫への色のグラデーションと、複雑な曲線の紋様が重なり合って抽象画を見るようです。

次に写真2では、色は三色だけですが、貼り絵のように積み重なった木肌は平板でなく、自然の野山を真上から眺めたように見えます。

最後の写真3は、絵と言うよりも彫刻です。細かく不規則に刻まれた紋様にはリズムがあります。海上の空高くから波立つ海面を見ているようです。

以上は私の感想ですが、ご覧になる皆様は、これらの樹の肌に色々な印象を持たれ、何かを想像されるでしょう。野山の樹木は美術館以上に刺激的だと思いませんか?

終わりに、上記の「樹皮の造形」でお見せした写真を、ご参考までに再度、下に掲載します。そこでは「人間の創作活動が、自然の造形活動を超えることは難しい」と述べました。いま再び同じ思いをしています。(写真4、5)
(以上)

          4.樹皮-02Phq
          写真4
                                   5.樹皮-06P 05q
                                   写真5
【2009/07/19 11:38】 | デザインする | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
報道は言葉より映像で
報道関係者は、記事を書いて更に「絵が欲しい」と云います。くどくどと言葉で語るよりも映像を見れば直ぐ事実が分かると云うのです。

その意味では、年一回、東京都写真美術館で開催される「世界報道写真展」は一瞥して世界で発生した重要事件が分かる便利な企画です。これまでの一年間で何が人々の関心事だったかが直ぐ分かるからです。

事実の報道ですから事実を的確に把握しているか、見た人が容易に事実が理解できるかが大事です。写真の出来映えは二の次です。但し、報道写真でもスポーツ写真は別です。ダンスやバレーのような美しさが求められます。

報道写真は事実を的確に伝達すれば十分なのですが、コンテストではセンセイショナルな写真が選ばれるようです。色彩も、大きさも、誇張されたものが選ばれるようです。その方が見る人に訴える力が強いと考えるからです。

しかし、報道写真で大事なのは、感情に訴えるのではなく、理性に働きかける力です。その意味で、戦争、事故、貧困などをどぎつく捉えた写真よりも、今回の写真展ではサブプライムローンの悲劇を捉えたアンソニー・スアウの写真が印象的でした。

世界報道写真大賞を得た一枚と、上位入賞した三枚組の組写真二組、都合七枚の写真は、世界金融恐慌の始まりを見事に捉えています。これこそ言葉では表現しきれない社会現象を絵にして見せた写真です。

写真を言葉で説明しても意味がないので、是非写真展で現物をご覧下さい。展示会は8月9日迄開催されています。
(以上)

注:「世界報道写真展」については東京都写真美術館のサイト「写美」
http://www.syabi.com/details/wwp2009.htmlをご覧下さい。
【2009/07/13 10:35】 | 写真展 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
ユニバーサルデザインはユニバーサルになった
一昔前、ユニバーサルデザインという言葉が流行りました。この言葉は、もともと身体障害者のために考案されたデザインを指していました。

身体障害者は健常者用のデザインでは使いにくいので、特別に工夫されたデザインを提供しようとした運動がユニバーサルデザイン運動でした(米のロナルド・メイス博士の提唱)。

しかし身体障害者用に開発されたデザインは、健常者にも便利なものもありました。身体障害者だけに売れる製品では市場が限られていますが、健常者にも愛好されるとなれば、その製品の市場は大きくなります。そうなれば身体障害者用の製品の値段も安くなります。

こうしてユニバーサルデザインは社会に定着してきました。今は、身障者用のデザインだと云って殊更宣伝する必要もなくなったのでしょう。特別なものとして意識されなくなったことは結構なことです。

しかし、ユニバーサルデザインは、みんなが使い易く、かつ、安く入手できるとなると、広く普及して、デザインの画一化現象が起こります。誰も彼もユニバーサルデザインです。

すると、人は他人と違ったデザインを持ちたがります。ユニバーサルデザインは個性的でなく面白くないと言い始めます。値段は高くてもユニークなデザインを欲しくなります。それはファッションの世界です。大いに個性を発揮したら良いのです。

身体障害者用に開発されたユニバーサルデザインは、当初は一般の製品とは異なった形をしていました。格好よいか否かは別にして、その製品はユニークでした。ユニバーサルデザインが字義通りにユニバーサルになると、そのユニークさが消えます。

この皮肉な逆転劇は、何も身障者用のユニバーサルデザイン製品にだけ生じるものではありません。

近代建築の父と言われたル・コルビュジェは合理性を追求してピロティという柱の上に家を建てる様式を考案しました。それまでは地面に建てていた家が空中に浮いたので奇抜な設計でした。亜熱帯地方では高床式の家は珍しくありませんが、北半球の欧米ではユニークでした。

その様式は、忽ち広く受け入れられて西洋式の高床式建築は世界的に普及しました。何しろ空中に浮かして家を建てるのですから、どのような地形の土地にも容易に安く家を建てることが出来ました。今では、地上階を駐車場にするため都会のマンションまでピロティ方式を採用するほど普及しました。

もう一つ、北欧家具のイケアの例を挙げましょう。スエーデン南部の町、エルムフルートで誕生したイケアの家具は、シンプルなデザインと低価格で、先ずヨーロッパ市場に進出し、次いでアメリカ、ロシア、中国と広大な市場を席巻しつつあります。次にはインド市場を狙っています。

イケアは身体障害者用の家具としてスタートしたわけではありませんが、先ず大衆向けに製品価格を設定して、それが実現できる家具を組立方式でデザインするのだそうです。正にユニバーサルデザインそのものの発想です。

この発想の難点は、ユニバーサルデザインは普及すればする程、やがて厭きられることです。しかし、身体障害者ではありませんが経済的弱者である一般大衆にとっては有り難いユニバーサル・デザインです。
(以上)
【2009/07/07 12:03】 | デザインする | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
微視的と巨視的は似ている
     石垣-15D 0906q
                              石垣-19D 0906q


未だ何故描かれたのかその意図が解明されていないナスカの地上絵は、地上にいる通常の人の目ではその形を全く確認できません。最近アメリカの資源探査衛星ランドサットが発見した長さが50kmに及ぶ巨大な地上絵は、成層圏より高い上空からでないと形が分からないと云われています。

見る対象物に近づきすぎると却って見えなくなる現象は、カメラを扱う人はボケとして理解しています。人間関係で近すぎると、人を客観的に理解できなくなると言いますが、これも比喩として同じ事でしょう。

逆に、顕微鏡は肉眼では見えない小さな世界を覗くのですが、見る人によっては、そこに巨大な物体を見るような錯覚を起こすそうです。電子顕微鏡で極微の世界を探求する観察者は、原子を構成する原子核と電子の関係を大宇宙の天体に喩えています。

極微の世界と大宇宙の世界が相似形に見えるのは驚きですが、日常生活でも意識的に視点を移動させれば、見るものが微視的にも巨視的にも見えます。それには見る人が視覚上で想像力を働かせる必要があるのですが、同じものが二様に見えるのです。

写真は、苔むした大谷石の塀の一部を写したものです。塀の総体を見ているときは気付かなかったのですが、塀の一部を凝視すると写真のような絵になります。地球観測衛星ランドサットから写した山岳地帯の写真だと云っても人は疑わないでしょう。

遠くからなら見えるもの、極端に近づくと異質に見えるもの、見る意識を変えると違ったものに見えるもの、客観的に観察していても見え方は色々に変化します。中でも、大谷石の塀のように微視的なものが巨視的なものに変化するのが一番面白いと思いました。
(以上)
【2009/07/01 11:43】 | 発見する | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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